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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)327号 判決 1967年8月07日

昭和四一年(ネ)第三一二号事件控訴人同年(ネ)第三二七号事件被控訴人(第一審本訴原告) 華北塩業股有限公司

右訴訟代理人弁護士 斎藤直一

昭和四一年(ネ)第三一二号事件被控訴人同年(ネ)第三二七号事件控訴人(第一審本訴被告) 中村孝次郎

右訴訟代理人弁護士 富樫久吉

同 杉村正

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用はこれを二分し、その一を第一審本訴原告の、その余を第一審本訴被告の負担とする。

事実

第一審本訴手形代理人は、昭和四一年(ネ)第三二七号事件につき「原判決中本訴事件につき第一審本訴被告の敗訴部分を取り消す。第一審本訴原告の本訴請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審本訴原告の負担とする。」旨の判決を求め、昭和四一年(ネ)第三一二号事件につき「控訴棄却」の判決を求め、第一審本訴原告代理人は、昭和四一年(ネ)第三一二号事件につき「原判決中反訴事件につき第一審本訴原告の敗訴部分を取り消す。第一審本訴被告の反訴請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審本訴被告の負担とする。」旨の判決を求め、昭和四一年(ネ)第三二七号事件につき「控訴棄却」の判決を求めた。

当事者双方の事実の主張、証拠の提出、援用および認否は、

第一審本訴被告代理人において

『「旧日本占領地域に本店を有する会社の本邦内にある財産の整理に関する政令」(昭和二四年政令第二九一号)(以下単に政令と称す)は、この政令による「特殊整理」の対象となる資産負債の範囲を明確にするため、特に「指定日」という基準日を定め、指定日以後は在外会社に原則としてその業務を行なうことを禁止する(同第三条)と共に、整理財産に属する資産を目的とする担保権は指定日において消滅せしめる(同第六条)等の方法を講じて、右指定日現在の資産債務を整理させることとしたのであるから「整理財産に属する債務」の定義を定めた同第二条第一項第六号ロに列挙する債務も指定日現在の負債に限ることは当然であり、右指定日以後において発生する「特殊整理に要する費用に係る債務」の如きものも整理財産に含まれると解することは、特殊整理の対象となる資産負債の範囲を不明確にするのみならず、政令制定の趣旨に反する。

第一審本訴原告は本件政令の文理解釈を云々するけれども、同第七条又は同第二八条等の規定中に「特殊整理に要する費用に係る債務は」これを「整理財産に属する債務」とする旨の明文規定が存するなら格別、かかる規定は存しないのであるから、同第七条但書も必ずしも例外規定と解する必要はないし、同第二八条の規定も主要な債務についてその支払の順序を定めたものと解することができ、文理解釈上強いて「法律全体の趣旨に反し、また定義規定を無視して「特殊整理に要する費用に係る債務」を「整理財産に属する債務」と解すべきではない。

政令第七条第一項第四号、同条第二項ならびに同第四条第三項第二号の各規定を綜合すると、特殊整理人は大蔵大臣の許可がなくても、「整理財産に属する資産」を処分して同第七条第一項第一号の「特殊整理に要する費用に係る債務」について自由に弁済その他債務を消滅する行為をすることができると解される。すなわち、同第七条第一項第一号ないし第三号の債務については、同第四条第三項において、大蔵大臣の許可を要せず、特殊整理人が自由に支払うことができるものとしているので、同第七条第一項本文において更にこれを自由支払不能の債務の範疇に入れ、改めて例外として自由支払ができるとするような煩雑な手続をとっているとは考えられない。従って、同第七条第一項但書の規定は、少なくとも同項第一号ないし第三号の債務については同項本文の例外を規定したものではなく、同第四条第三項の規定を受けて特殊整理人が自由に支払しうる債務を注意的に掲記したものと解すべきである。』と述べ、

<証拠省略>

第一審本訴原告代理人は

『政令第九条ならびに第一〇条によれば、在外会社の特殊整理は特殊整理人が主務大臣(本件では大蔵大臣)の監督のもとにこれを行うことになっており、重要事項ことに金銭支出は主務大臣の承認を要するのに、本件においては特殊整理人は第一審本訴被告との間に報酬契約を締結し、金六三八万二〇〇〇円という多額の手数料の支払を約するに当たり、大蔵大臣の承諾を全然えていない。すなわち、

(イ)  現に、昭和三〇年八月三一日付をもって当時の特殊整理人米田秀甫から大蔵省管財局長宛に「法律家に依嘱するにつきその承認を求めたく、その費用についてはその都度予め協議申し上ぐるにつき特殊整理費として御承認賜わるよう予め御諒承願いたい」旨の書面が出されており、

(ロ)  引きつづき、同年九月二二日付米田特殊整理人から大蔵省管財局長宛に、中村孝次郎(第一審本訴被告)に対する本件塩価補償金債権の存否についての鑑定料一〇万円ほどの金額の支払承認願が出されている。

(ハ)  しかるに、本件公正証書のような広範な内容の契約を締結し、その中で前記六三八万二〇〇〇円という多額の報酬(手数料)の支払を約し、しかも右手数料につき強制執行認諾の条項まで付しているのに何ら大蔵省当局の承諾を求めていない。

(ニ)  右公正証書によると「第一審本訴原告の当時の特殊整理人米田秀甫の人違なきことは大蔵省管財局長の証明書によった」旨記載されているところ、右公正証書の作成された日の一一日前である昭和三一年一〇月二日大蔵省管財局長宛に、米田秀甫が特殊整理人であることの資格証明願が出されており、その使用目的には「未収債権の回収問題につき専売局等にその調査交渉をなすため」とあり、弁護士に事件依頼をなし、多額の手数料の支払を約する公正証書を作成するため」との文言はないし、他に右管財局長から右米田にその資格証明書を出したことはないので、前記資格証明書が本件公正証書作成のため使用されたと考えるほかはない。

(ホ)  その後、米田特殊整理人から前記管財局長に対し、本件委任契約の締結手数料の支払に関し事後承諾を求めた事実はあるが、主として手数料が高額であるという理由から拒絶されている。その理由は、「当時第一審本訴原告の現有財産は約二〇〇〇万円であったが、そのうち約一〇〇〇万円はすでに旧役職員の退職金の未払分に充てられることに確定しており、残りは僅か約一〇〇〇万円しかないのに、そのうちから六三八万二〇〇〇円を手数料として支払うことは到底承認しがたいし、また米田特殊整理人の主張する塩価補償金約二億〇四〇〇万円はすでに戦後の戦時補償特別税と相殺されていて、在外会社の未収債権はすでに存在していない等」というのが大蔵省側の見解で、従って第一審本訴原告の財産は右二〇〇〇万円以上に殖える見込みはなかったので、前記の如く拒絶されたのである。

以上のとおりであって、情を知らない第三者なら格別第一審本訴被告はすでに前記のとおり弁護士として塩価補償金債権の存否に関し鑑定しており、本件政令は熟知しているし、米田特殊整理人とは親しい友人関係であったのであるから、右委任契約につき主務大臣の承認がなかったことは了知していたと推認される。かような悪意の第一審本訴被告に対しては、前記公正証書による本件委任契約、従ってそのうちの手数料支払約款は無効であることを主張できると解すべきである。」と述べ、

<証拠省略>と付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

(第一審本訴原告の本訴請求について)

当裁判所も原審と同じく第一審本訴原告の本訴請求は正当として認容すべきものと判断するが、その理由は原判決にしるすとおり(原判決書一二枚目うら一一行目から一四枚目うら八行目まで)であるから、これを引用する。

(第一審本訴被告の反訴請求について)

当裁判所も第一審本訴原告主張の本案前の抗弁は採用し難いと判断するが、その理由は、原判決にしるすとおり(原判決書一四枚目うら一一行目から一五枚目表一〇行目まで)であるから、これを引用する。

本案について、

第一審本訴原告が、昭和三〇年八月三〇日弁護士である第一審本訴被告に対し、予て第一審本訴原告が大蔵省に対し有していた昭和二〇年度分専売局への塩納入の補償金債権二億〇三九八万〇九三八円の取立に関する件一切を委任すると共に、着手金として金六三八万二〇〇〇円を昭和三二年二月末日までに第一審本訴被告に支払う旨約定したことは当事者間に争いがない。

そこで第一審本訴原告の前記本案の抗弁について判断する。

本件着手金支払の契約について主務大臣の承認をえていないことは当事者間に争いないところであるが、本件政令には特殊整理人が特殊整理のためみぎのような契約を締結するについて、主務大臣の承認を必要とする旨を定めた直接の規定はないし、本件政令の全趣旨にてらしても右契約につき主務大臣の承認を必要とすべき根拠は見出し難い。

すなわち、成立に争いのない甲第五号証の一ないし三の記載によれば、

『連合国最高司令部発一九四九年六月一日付日本政府宛(一〇二九)「旧日本占領地に本社を持つ会社または個人の日本国内所在財産の処分に関する覚書」はその清算の方法についての具体的基準を定めたもので、その中には「さしあたり許可される支払は、清算人経費、許可された事業の経営費および当座の税金のみであって、これ以外の支払や財産の売却移譲は、改めて連合国最高司令官の指示あるまで許されない」旨記載されており、右覚書を実施するため本件政令が制定されたことが認められ、そして政令第九条に「特殊整理は主務大臣の監督に属する」旨、同第一〇条には「特殊整理は特殊整理人が行なう」旨それぞれ規定されているから、右特殊整理は主務大臣の監督のもとに特殊整理人が行うもので、もとより特殊整理人はその職務を遂行するにつき重要な事項に関しては主務大臣の承認をえて整理に従事するのを相当とするけれども、前記覚書においても、特殊整理人経費についてはその支払を許されており、政令も第七条第一号により特殊整理に要する費用に係る債務については、特殊整理人に対しその支払を許しているのであって、特殊整理のためなされたと認められる本件契約をするについて主務大臣の承認がなかったとしてもこれを無効ということはできない。主務大臣の承認を得なかったことが特殊整理人の不相当な行為としてその解任の事由となるか否かは別論である。したがってみぎ契約に際し第一審本件被告がみぎ不承認の事実を知っていたとしても前記契約の効力を左右するとは到底考えられないから、第一審本訴原告の右抗弁は採用し難い。

以上のとおりであるから、第一審本訴被告は第一審本訴原告に対し、右着手金の請求権のうち、その請求にかかる金五六三万一〇〇〇円の支払を求める権利を有するものといわねばならない。

ただし、右請求権については、前記認定のとおり、政令第八条の規定に従い、第一審本訴原告の「整理財産に属する資産」に対しては強制執行をすることができないことが明らかであるから、第一審本訴原告に対し右金員の支払を求める第一審本訴被告の反訴請求は、右の強制執行に関する留保を付してこれを認容すべく、その余は失当として棄却するのが相当である。

なお、第一審本訴被告の第二次の反訴請求は、前記着手金の請求権につき法律上給付判決をすることが許されないことを前提として確認の判決を求めているが、すでに説示したとおり、右請求権について法律上給付判決をすることが許されるのであるから、右請求権の存在確認を求める本件第二次の反訴請求については、判断をする筋合ではない。

よって、第一審本訴原告の本訴請求ならびに第一審本訴被告の反訴請求につき右認定の限度でそれぞれこれを認容した原判決は相当である<以下省略>。

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